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PEN 2025/09/16(Tue)

がん患者さんの栄養ケアと「完調品」の活用

こんにちは。月刊『ヘルスケア・レストラン』の元編集長でフリーの栄養編集者の佐々木修です。

 2025年9月5日(木)、私が司会を務めるオンラインのトークイベント、「クックパック®︎トークライブ」第3弾が開催されました。今回、講師にお招きしたのは真壁 昇先生(関西電力病院栄養管理室長)です。

 真壁先生は長年にわたって、褥瘡患者さんやがん患者さんの栄養ケアに尽力されてきました。今回はその中で特に、がん患者さんの食欲不振への対応についてお話しいただきました。
 真壁先生はまず、がん患者さんの食欲不振の原因について大きく、①口内炎や味覚異常、嘔気等の化学放射線療法の副作用によるもの、②消化管がんの手術等による狭窄などの気質的な変化によるもの、③ターミナルなどの緩和医療における複合的な要因と、3つを挙げました。
 そして、①に対する栄養ケアのポイントとして、酸味や匂いを抑えたメニューの提供など、それぞれの症状に応じた対応。倦怠感については、小さく握ったおにぎりなど、食べたいと思った時に希望する食べやすい物をさっと提供すること。②に対しては、術前・術後に生じる栄養リスクを勘案し、術前に除脂肪量の増加や皮膚状態の改善を目指した栄養ケアなど、プレハビリテーションの実践と術後体重の抑制対策。そして③に対しては、食べたい物を食べたい時に迅速に提供できる工夫と解説いただきました。
 ちなみに関西電力病院の緩和ケア病棟では、たこ焼きやかき氷など10種類の固定メニューを用意。患者さんが食べたい時にいつでもお好みのメニューを提供できる体制を築いているそうです。

 いずれにおいても、がん患者さんの病態の変化は激しく、食欲も低下しがちです。そのため、レトルト食品や完全調理済み食品をストックしておき、気分や病態の変化に応じて必要なメニューをすぐに提供できる体制を整えておくことが適切な栄養ケアにつながると強調されました。
「こうした提供体制と整備していくためには、クックサーブでの提供では困難となることもあるでしょう。今後はマンパワーの面でも完全調理済み食品の導入を検討していくことが必要かもしれません」

 さらにがん患者さんの栄養ケアにおいて最も大切なこととして、真壁先生は患者さんとの信頼関係を挙げました。
「人は食欲がない時に食べ物の話をされても、聞きたくないと思うものです。それでも食べていただかなければ病態は改善しません。どうしたら食べてみたいと思っていただけるのか? それには、症状出現前からの関わりをとおして患者さんの心を開き、何でも相談したいと思っていただける信頼関係構築が不可欠なのです。」

 患者さんのこれまでの生き方を知り、今後の人生においてどんな希望を抱いているのか? 患者さんの話を傾聴しながらそうした思いに触れること。そして、その実現のためには、食べて栄養改善することが重要だと患者さんご自身に理解いただくこと。それががん患者さんの栄養ケアにおいて不可欠な要素だと真壁先生は語ります。

「信頼関係構築のためのアプローチの1つとして、フィジカルアセスメントが有効だと思います。患者さんと会話しながら、手を握り肌や爪に触れ、皮膚状態をアセスメントし、浮腫や脱水の有無を確認しながら下腿周囲長を測って筋量を計測すること。本やセミナー等で学ぶことは大切です。しかし、患者さんとの交流はさらに多くの大切なことを教えてくれるのです」


佐々木修氏

佐々木修/プロフィール

月刊『ヘルスケア・レストラン』の元編集長であり、現在はフリーの栄養編集者として活動しています。
栄養管理に関する情報を発信するトークライブなども行っており、専門的な知識を活かして多方面で活躍中です。