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学校・家族生活患者さんの個別性に注視しながら、食べる自由度を高める
こんにちは。月刊『ヘルスケア・レストラン』の元編集長でフリーの栄養編集者の佐々木修です。
2026年7月6日(月)、私が司会を務めるオンラインのトークイベント、「クックパック®︎トークライブ」第8弾が開催されました。今回は、東京科学大学大学院医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション学分野教授の戸原玄先生を講師にお招きしました。
戸原先生は本邦における在宅訪問歯科診療の草分けとも言える歯科医です。戸原先生が母校である東京医科歯科大学(現・東京科学大学)の病院外来で摂食嚥下障害の方々の摂食嚥下リハビリテーション(以下、嚥下リハ)を開始した2000年代初頭、外来を訪れる患者さんは皆無でした。
障害があって食べることが難しくなっていても、なぜ食べられないのか、食べられるようになるためにはどこで診てもらえばいいのか、わからない患者さんばかりだったからです。
「ならば、嚥下リハを必要としている方々の生活の場へ行って食べるための支援をしていこう」と決意した戸原先生。以来、在宅という患者さんの生活の場で戸原先生はその方が真に必要とする支援とは何かと自問しながら、食べるための支援に尽力してきました。
「例えば、嚥下機能評価のための嚥下訓練用のゼリーがともすれば、病院や施設で食事として位置付けられていることがあります。患者さんにとってこうしたゼリーは食事になり得るのでしょうか?」と問いかける戸原先生。ペースト食などの加水によって物性調整された食事についても同様です。すべてが均質な物性の食物は、安全ではあるかもしれませんが食感の変化に乏しく、往々にして患者さんの食べる意欲を喪失させ、生きる力の低下につながる可能性を否定できません。
「患者さんの病態や嗜好、生活スタイルは様々です。私たちは患者さんのそうした個別性に注視していくべきでしょう」(戸原先生)
例えば、摂食嚥下障害の原因となる疾患によっても支援のアプローチが変わると戸原先生。その疾患は大きく、脳血管疾患、認知症、パーキンソン病などの神経系の疾患に分かれます。
脳血管疾患であれば進行性であることは少なく、経口摂取を可能とするためのアプローチが期待されます。
認知症の進行は人によって様々ですが、いずれ身体が動かなくなり、食べられなくなる可能性があります。そのエンドポイントを見据え、症状の変化に応じたアプローチが求められます。
神経系の疾患の進行は早く、本人とご家族の意向を尊重しながら、場合によっては気管切開や胃ろうなどの処置が必要となります。嚥下リハのアプローチとしては、そうした状況の変化に応じて患者さんとご家族の希望の実現に向けて歩んでいくことになります。
「ただし、脳血管疾患の方であってもアウトカムを得られるまでには、長い時間を必要とすることが珍しくありません。私が関わった方の中には、介入から嚥下反射の惹起を認めるまで8年を要したケースもあります」(戸原先生)
アウトカムまでに長い時間がかかるアプローチにおいては〝何かよくなったこと゛を見つけ、患者さんとご家族、そして嚥下リハチームのメンバーがそれを共有していくことが必要だと、戸原先生は言います。
「例えば顔色が良くなった、今日は発語が多いなど、日々のささやかな変化に気づくことが大切です。その変化に応じて、今日はもう少し食べられそうと思えば、お粥の中にお茶漬け用のカリカリのあられを入れてみるなど、食感の変化を楽しめる工夫をするといいでしょう」
油で揚げたあられなどは、カリカリの食感であっても唾液を含むと飲み込みやすい物性に変化するため、嚥下調整食の食感に変化をもたらすことに優れており、患者さんの食欲の向上につながる可能性があります。
「私たちには患者さんが食べるための支援を通して、生きる力のサポートをしていくという使命があります。食べる喜びを生きる力につなげるためには、食べる選択肢を増やしていくこと、つまり食の自由度を高めていくことが重要です。今後、完全調理済み食品が在宅へ広がっていくのであれば、その自由度がより高まるかもしれません」(戸原先生)

戸原玄先生

佐々木修/プロフィール
月刊『ヘルスケア・レストラン』の元編集長であり、現在はフリーの栄養編集者として活動しています。
栄養管理に関する情報を発信するトークライブなども行っており、専門的な知識を活かして多方面で活躍中です。


