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NEW PEN 2025/11/18(Tue)

最早、完調品導入なしの病院給食は成り立たない!

ここんにちは。月刊『ヘルスケア・レストラン』の元編集長でフリーの栄養編集者の佐々木修です。

 2025年11月12日(水)、私が司会を務めるオンラインのトークイベント、「クックパック®︎トークライブ」第4弾が開催されました。今回、講師にお招きしたのは田中智美先生(手稲渓仁会病院栄養部部長)です。

 北海道札幌市に位置する手稲渓仁会病院は、660床・36診療科を擁する地域中核病院です。同院の救命救急センターは3次救急病院に指定されており、1年365日24時間体制で重症患者を受け入れ、年間約8500件もの手術を施行しています。

「当院では1日約1500食提供しています。食事提供率は入院患者さんの約90%であり、そのうちの約70%が一般食です」と田中先生。入退院件数は道内一とされ、1日約400食もの食事変更がなされると言います。その対応は調理スタッフにとって大きな負担になっています。
「加えて私たちは、年間を通してほぼ毎日、朝・昼食を選択メニューとしています。当然ながら、調理スタッフの負担増となるのですが、患者さんには食事を選ぶ権利があり、自ら選ぶことで食事への期待が高まり、食欲向上、食事満足度向上へとつながると考えています」

 それまで同院は、給食業務を全面委託とし、クックサーブ方式で提供してきました。しかし、入院患者さんの高齢化の進行とともに病態が複雑化し、病態や状況に応じた食事変更が求められるようになりました加えて、給食会社スタッフも高齢化。調理スタッフの負担が増大して人員の確保が難しくなり、これまでのようなクックサーブ方式での提供は困難になることが懸念されたと田中先生は語ります。
「抜本的に方法を変えて調理スタッフの負担軽減につなげないと、給食を提供できなくなると危機感を抱きました。その解決方法として行き着いたのが完全調理済み食品の導入です」

 2024年末、田中先生は、それまで提供していた4週間サイクルの献立を2週間サイクルに圧縮。まずは献立の品数を削減しました。もともと同院の平均在院日数は、約10日。2週間サイクルに変更しても患者さんの不満にはつながらなかったと言います。
「そのうえで道内の食品メーカーさんに掛け合い、当院の献立をそのまま完全調理済み食品にしていただく試みを始めました。さらに給食会社の方と完全調理済み食品による提供システム構築を行い、2025年11月に3食とも完全調理済み食品での試験運用踏み切りました」

 数日間運用した結果、調理スタッフの負担が大きく軽減されて人員の確保につながる希望が持てたとともに、栄養部の管理栄養士も安心して病棟や外来などで臨床業務に専念することができています。

「食事の質を低下させず、栄養管理の質を高めていくためにはどうしたらいいか? この目標を達成するために半年以上かけて、食品メーカーと給食会社、そして私たち栄養部が三者合同で取り組み始めたプロジェクトです」と田中先生は語ります。

ちなみに同院では入院後の栄養スクリーニングはほとんど栄養部の管理栄養士が担当しています。その結果、医師や看護師の業務軽減と信頼関係強化につながり、電子カルテ上で医師の承認のもとに管理栄養士と看護師が食事変更可能な食事プロトコールの導入に至ったと言います。
「食事プロトコールの導入によって、病棟での栄養評価が迅速な食事変更につながりました。そして、今後完全調理済み食品の導入を進めることで安定した給食管理運営が行えるようになり、栄養管理の質の向上につながることを期待しています」と田中先生。「新たなチャレンジに不安はつきものです。しかし、今までと同じことを繰り返すだけではおそらく、食事提供の継続も適切な栄養管理も不可能です。勇気を持って管理栄養士業務の抜本的な改革に取り組んでいきましょう」

手稲渓仁会病院栄養部部長の田中智美先生


佐々木修氏

佐々木修/プロフィール

月刊『ヘルスケア・レストラン』の元編集長であり、現在はフリーの栄養編集者として活動しています。
栄養管理に関する情報を発信するトークライブなども行っており、専門的な知識を活かして多方面で活躍中です。